「よくねたいも」は起こさない

東京時代に、北海道のじゃがいも産地の方に「じゃがいもは3回おいしくなる」と教わりました。

とれたての新じゃがのいもの香りを楽しむ時期と、しっかりと完熟してから収穫した、ほくほくしておいしい晩秋以降の時期と、年が明けでんぷんの糖化が進み、甘さがぐっと増す春の時期と。

6月あたりからCMを賑わしている、ホクレンさんの「よくねたいも」は、3番目の糖化が進んだ、「あまーいじゃがいも」のことですが、個人的に気になっていることがあります。

 

じゃがいもの収穫後のでんぷんと糖分の変化を1年間にわたって調べていたので、じゃがいもが年明けにぐぐっと甘みが増してくることは東京にいた頃も知っていました。

しかし、そのおいしさをちゃんと体感したのは函館に来てからでした。

2月頃、家族で入った居酒屋さんで頼んだフライドポテトの強烈な甘さとほんのりと残るいもの風味に思わず驚きました。明らかに(本州で食べるより)おいしいと。

 

北海道と本州で、味わいに差が生まれたのはなんなのか。

そもそも春先甘みが増すのは、冷蔵貯蔵する中で、じゃがいもが凍結しないようにでんぷんを分解して、糖分濃度を上げているからです。

濃度が高い液体の方が凍りづらいのと同じ原理です。

しかし、常温に戻ると凍る心配がないので、増えた余分な糖分はいもの呼吸などで消費されてしまいます。

3-4月、北海道はまだ雪が残り、寒い日が続きますが、本州では桜が咲かんとする時期ですし、6月ともなれば20度後半で暖かい。

 

じゃがいもは常温で腐る代物ではないので、北海道から本州への配送は常温です。

寒い北海道から暖かい本州に運ばれ、常温でスーパーの棚に置かれているうちに、あの強烈な甘みはどんどん目減りしていくのです。

せっかくなら冷蔵輸送の冷蔵陳列、家でも冷蔵保管。よくねたいもは冷蔵でそのまま寝かせておかないとおいしさは保てません。

 

ホクレンさん、広告代がもったいないですよ。

 

【追記】学会誌のグラフを抜粋。見事に常温に戻すと糖含量が減っています。

いやー、もったいない。春の北海道じゃがいものおいしさをちゃんとお届けしたいと思う店主です。

『遠藤千絵,石黒浩二,滝川重信,野田高弘,波佐康弘 生食用ジャガイモ品種の低温貯蔵による糖含量の増加特性 日本食品科学工学会誌 62  No. 1,50-55(2015)』

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収穫後2℃に貯蔵した「インカのめざめ」というじゃがいもの貯蔵期間に伴う、糖含量の変化を折れ線グラフで示したものです(●印を見ると貯蔵とともに糖含量が増えて行っているのがわかります)。途中、貯蔵後41日後と180日後に一部のサンプルを取り出し、20℃で4週間おいてみたのが▲印の折れ線。20℃に置いたことで急激に糖含量が減っていることがわかります。

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